杠グループ 代表 / 司法書士

川原田 慶太

『杠(ゆずりは)グループ』(2022年10月に「おおさか法務グループ」より名称変更)は司法書士法人を中核とし、総勢約60名(2023年5月現在)で快進撃を続ける法務グループだ。その活動領域は、法人・個人の戦略法務、資産マネジメント、相続・遺言・後見サポート・・・一般的な司法書士業務の枠にとどまらない。

そのグループを立ち上げ、率いる川原田慶太氏は軍師アカデミー2011(軍師第2期)修了の軍師。今回、改めてこれまでの歩みについて詳細を伺った。

川原田氏の開業は2002年10月、大阪難波の個人事務所としてのスタートだった。当時25歳、若くして独立した川原田氏は柔軟な発想を駆使し、まずは司法書士事務所としての勝負どころ、付加価値の源泉はどこなのかを考え抜き、徹底したという。

例えば、司法書士の手続き業務そのものの着地点に差別化要因は無い。登記が成立したという「結果」が残るだけだ。付加価値が生まれるのはそこにたどり着くまでのプロセスだと確信した川原田氏は、そこに至るまでのサービス強化を徹底した。そして、選ばれる司法書士事務所として最初の成長ステージを駆け抜けることに成功した。

しかし、決して順風満帆な日々が続いたわけではない。いや、順風満帆といかなかったからこそ別次元のステージ、現:杠グループに至るまでの転換を図ることができたのかもしれない。

大きなキッカケとなったのは2008年のリーマンショック。世界金融が混乱し、融資が停滞したとき、司法書士の仕事「不動産登記業務」が目の前から消えていった。まるで仕事が流れる河川の上流が堰き止められたかのように、自分たちのところに「流れてくるはずのもの」がやってこなくなった。

商流の河口エリア、最後の手続き部分を担う司法書士にとって、それは自分たちの生命線の喪失さえも感じさせる事態となった。

川原田氏は改めて自分たちの存在意義を見つめ直し、再スタートすることを決断した。

より広く、深く、「経営」と寄り添うことができる存在へ。
より近く、長く、「人」と寄り添うことができる存在へ。
そんな存在として、自分たちならではの高付加価値な仕事を担い、成長する。

見据えた未来は、既に従来の司法書士事務所の枠を超えていた。司法書士の専門性を活かしながらも、自らの意志で未知なる領域を開拓する挑戦が始まった。

決意した川原田氏は即座に行動を転換する。

現在では同グループが注力する柱の1つとなった後見サポート業務にも着手。また、「登記」の上流に存在する高付加価値の領域に着目し、そこに自分たちの柱を立てるための力を獲得にするための行動を開始した。

必要だったのは、司法書士の枠を超え、「経営」を「経営者」と共有できるフレームを自分に落とし込む力。当時、司法書士を「経営」の専門家として認知してくれる経営者は皆無だった。その関係性を切り崩すためには、自らの視点、視座、知識・見識そのものを再構築し、多様な経営者とともに歩むことができる自分になる必要があった。

さらに、将来の事業の拡がり、付加価値の幅広さや奥深さを考えた時、プレーヤーとしての自分を前提とすることに限界があることもわかっていた。新展開のためには、個々のテーマにモチベーションを持つ多様な仲間を集め、その個性が集まる組織としての事業体に転換する必要がある。自分に必要なのは職人的専門スキルではなく、集団の要を担う力だと感じていた。

その大きな課題と向き合う川原田氏は、2011年、軍師アカデミー(第2期)に参加し、2つの要素を同時に自分の中に落とし込み、力として醸成していった。

既に変革・転換期に入っていた川原田氏にとって、中小・オーナー企業経営の肌感覚が色濃く残る「軍師の学び」はリアリティ溢れるものだったという。有名な大企業のビジネス事例を空中戦の如く振り回すのではなく、現場・現実・実務の肌感覚の中で経営と向き合う軍師の学び。それは川原田氏が求めていたものだった。

軍師が体系化したフレームを吸収した川原田氏は経営者たちに寄り添い、ともに歩む軍師らしい動きを加速させた。想いを共有できる陣容も拡大させていった。軍師アカデミーに参加した頃は15名程度の陣容だった自社も今では総勢60名(2023年5月現在)の総合的な法務グループとして存在感を放つまでになっている。

そんな川原田氏だが、実は約10年前からグループ代表としての役割に集中し、法務専門家としての実務を直接担うことはなくなった。

付加価値の高い専門テーマであればあるほど、それが好きで「やりたい!」と思う人が自らの意志で推進する必要がある。むしろ「これをしたい!」という仲間の存在ありきで自社の事業領域を組み立てたほうが自分たちは強くなれる。それを束ね、トータルでのベクトルをつくり、グループとしての存在価値を高めるのが自分の役割だ。川原田氏の姿からは、代表としての揺るがない信念がにじみ出ている。

実は、川原田氏は軍師アカデミー第2期を修了後、法人グループの幹部・幹部候補を軍師アカデミーでの学びに送り込んできた。その数は累積10名超。幹部はそれぞれ個性あふれる専門家だが、アカデミーを通して共通言語としての軍師の視点が組織内に組み込まれる。自分たちは士業事務所ではなく、高付加価値のサービス企業として組織的成長を目指す川原田氏の想いと狙いがそこにあった。

司法書士の個人事務所として開業して20年余り。軍師アカデミーを修了して10年余り。対外的に「軍師」を名乗らずとも、川原田氏や杠グループが人や企業に寄り添い、ともに成長しながら歩もうとする姿には、大切な誰かとともに歩もうとする『軍師』の顔が常に内在している。

開業20年を超え、川原田氏はここからどんな『軍師像』を見せてくれるのだろうか。世の中ではAIの発展に伴い、手続き的な士業業務の未来に暗雲が漂うことも語られているが、川原田氏や『杠(ゆずりは)グループ』が注力してきた領域は人間ならではの付加価値が生まれる部分に他ならない。2022年より新たなグループ名称とした「ゆずりは」には、春先に萌える若葉とそれまでの葉が入れ替わり、生まれ変わることで常に青さを保つ植物「ゆずりは」と自らを重ね合わせている。これからも常に青く、若さを失わない川原田氏たちの創造の歩みはこれからも続く。

まだまだ驚かせてくれそうな予感と期待感が止まらない。

*司法書士の枠にとどまらない川原田氏のそもそもの出発点についてはこのあとのInteviewをご覧ください。

<参考リンク>
杠グループ公式サイト  https://yuzuri-ha.or.jp/
杠司法書士法人公式サイト https://olao.jp/
司法書士法人ゆずりは後見センター https://yuzuriha-kouken.jp/
クローバーコンサルティング株式会社 https://www.clover-co.co.jp/


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Interview

Q. 川原田さんが司法書士、法務の世界に入られたキッカケを教えていただけますか?良い意味で多くの司法書士の方たちとは最初から思考・行動の前提条件が違っていたのではないかと感じるのですが。

私はもともと専門家志向ではありませんでした。学生時代には外交官になりたいと思っていたこともありましたし、国内外を股にかけて仕事をする自分を思い描いていたのです。大学では法学部に在籍していましたが、いわゆる法律の専門職を目指すつもりは全くありませんでした。

しかし、大学3回生のとき、いざ就職先を選定する時期になったとき、厳しい現実に直面したのです。自分を雇ってくれるところがなかったのです。

 

Q. 就職先が見つからなかったということですか?

はい。私は15歳の時に健康を害してしまい今に至ります。大学生の後半になると、健康診断で障がい者と診断される状態になっていました。その当時、そんな私を採用する企業は見つからなかったのです。公務員に望みを託した時期もありましたが、試験に合格しても採用はされません。大学の友人たちが名立たる企業や官公庁に就職先を決め、輝きを見せる中で絶望を感じた時期でした。

そのとき、同級生で現在もともに働く北村(北村清孝氏 現:杠司法書士法人代表社員)がこの世界に誘ってくれました。私も彼と一緒に頑張れるならば・・・と気持ちを切り替え、司法書士への道に軌道修正したのです。

Q. もともと専門家志向ではなく、司法書士の仕事を目指していたわけではなかったからこそ、先入観にとらわれず、純粋に可能性を追求することができたのでしょうか?

そういう一面はありました。北村という大切な友人のおかげで司法書士の世界に入り、法律の世界でキャリアをスタートすることができました。できれば、この世界でともに歩む仲間たちと司法書士の可能性を膨らませたいとも思いましたし、司法書士にはまだまだ未開の領域が残っていると先入観のない私には感じられたのです。

また、就職時の挫折が影響しているかもしれませんが、せっかくならば、誰もが知る有名なコンサルティングファームにも引けを取らないレベルを目指したかったのです。不本意な経緯で足を踏み入れることになったわけですが、やるからには・・・という感情がありました。

Q. そして実際に結果を出されました。独立してから20年余り、軍師アカデミーを修了した頃から計算しても11年余りが経過しました。見える景色も変わってきたと思います。振り返ったとき、どんなことを感じられますか?

司法書士業務が「登記」という実務抜きに考えにくい現実があったとしても、そこに至るプロセス、その前後におけるかかわりの中にこそ付加価値を生み出せる可能性があるという見立ては間違っていませんでした。目の前の方々の「経営」や「キャリア」の全体像に目を配り、支え、ともに歩む存在を組織として目指してきた20年間でした。

私自身、軍師アカデミーで学び、職場の幹部たちも軍師アカデミーに参加してきましたから不思議なことではありませんが、気がつくと自分たちの在り方の中に軍師っぽさが入り込んでいたのだと(今回の取材の中で)再認識しました(笑)。

Q. 昨年(2022年)10月、長年掲げていた「おおさか法務」のグループ名称を「杠(ゆずりは)」に改めました。次なるステージの始まりですね?

はい。この20年間、幸せなことに個性的な専門家が集まり、多くの分野で結果を出すことができました。もちろんうまくいかないこともありましたが、挑戦を続けてきました。主要な分野では全国でもトップクラスと評していただける存在感も生まれてきたことを感じます。意欲と能力を持つ仲間が集まってくれたからこその結果ですが、今一度、自分たちの存在意義を見つめ直し、新しい成長ステージに進む節目が来ました。これまで必死に各方面に伸ばしてきた枝を剪定し、自分たちのベクトルを明確にしたわけです。

Q.仲間たちとともに歩むグループとしてのベクトルですね?

はい。つい先日、今後の計画、ビジョンについて発表会を実施したばかりです。振り返ると、強い専門性と主体的な意思・意欲をもつ仲間が集まっているからこそ成長することができた『杠グループ』だと実感します。そんな仲間たちとともに、日本の中で独自の存在感を放つ法務グループへ。その独自性が定まり、新しいステージを駆け抜ける準備がやっと整いました。


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Profile

1976年大阪生まれ

京都大学法学部在学中に司法書士試験に合格し、約2年の修業期間を経て2005年に司法書士法人おおさか法務事務所設立(代表就任)。記事中にあるように、高校時代に健康を害し、その健康問題を抱えながらのキャリア開拓ではあったが、自分ならではの視点で法務サービスの可能性を開拓し続け、優秀かつ意欲的な専門家たちと強い組織をつくって快進撃を続けている。これまで二度の長期入院で現場から離脱を余儀なくされる時期もあったが、その歩みへの影響は微塵も感じさせることなく駆け抜けた20年。今なお、前進を続ける軍師アカデミー第2期修了の軍師。